切に願う。
 この手紙がお前の糧になればいいと。

 いつか来る、彼が目覚めるその日まで。


 コンコン、と部屋のドアがノックされた。
 机に向かったまま「入れ」と短く返すと、「失礼します」という声とともにドアが開いた。
「イオスか…。例の件はどうだ?」
「はい。今日中にも野党と外道召喚師を討伐出来るかと」
「近くの派閥に引き渡すのを忘れるなよ。それと次の依頼だ。目を通しておけ」
 イオスの言葉に短く頷いて、何枚かの書類を差し出す。

 戦いが終わりトリス達と別れたルヴァイド達は、金の派閥からの援助を受け、騎士団を設立した。
 どの権力にも属さない、民の為だけの騎士団を。

「はい。…それと、ルヴァイド様宛に手紙が届いてます」
 書類を受け取りながら、イオスは一通の手紙を取り出した。
「――そうか」
 送り主を見ずに受け取る。見ずとも分かっている。
 差出人は彼女。
 あの戦いで『仲間』という言葉の、本当の意味を教えてくれた少女なのだから。


 イオスを下がらせ、ペーパーナイフで封を切る。
 手紙の内容はいつも決まっている。自分達の近況と軽い世間話、そして最後には必ず『無理しちゃダメだよ』と書いてあるのだ。
「…無理をしているのはどちらだ」
 眉をひそめて呟き、目を通した手紙を封筒に戻した。

 メルギトスの戦いには自身も参加していた。しかし、初めて出会ったのは彼女達の命を狙う敵として。
 デグレアに間違いはないと信じていた俺は、関係のない多くの人間を斬り、剣を血に染めた。
 あの頃の俺は、『それ』が間違っているとも知らなかった。デグレアの為だと馬鹿みたいに信じ、思い込んで。
 何度も叫び、俺を助けようとしてくれた少女の言葉でさえ、信じずに。

 結局、俺がしていたことは敵であるメルギトスに手を貸しているだけに過ぎず、デグレアの将軍達はすでに息絶えなおも操られていて。
 あの時ほど、己を呪ったことはなかった。
「…いや」
 自ら、命を断とうと思った。それだけのことをしてしまったのだから。
 だが、そんな俺の手を掴んだのは他でもない彼女で。
『貴方を救ったのはあたし達だけじゃない。貴方自身が、絶望へと立ち向かったから救われることが出来たんだよ』
 そう屈託なく笑う少女に、…その言葉にどれほど救われたか彼女は知らないだろう。

 ――…あの戦いで、大切な人を失った少女。
 今でも、きっと彼が眠る樹の守人をして生きているのだろう。
 人前で泣き言も、泣き顔も見せずに。
 彼女はそういう人間だ。良くも悪くも、甘えるのが下手な。

 騎士団を設立する為、別れを告げた時。彼女は一瞬驚いた後「ルヴァイドなら出来るよ!」と笑った。…それは、以前見た笑顔より力なかったが。
 そして「手紙書くから!」との言葉の通り、彼女は定期的に手紙を送って来ている。

 ―――泣き言一つ書かれていない、手紙。
(…いっそ、書かれてあればいいのだろうが)
 一行でいい。泣き言が、書いてあれば。
 そう考えて、「いや…」と頭を横に振る。そんなことはありえない。
 甘え下手な彼女はきっと、ただ一人にしか甘えることは出来ないだろう。
 今も眠る、彼にしか。

(…さて)
 机の引き出しから白い便箋と封筒を取り出す。俺に似合わないだろうこの代物は、彼女からの手紙の返信用の為だけにあると言ってもいい。
 万年筆を手に取り、白い便箋を黒のインクで埋めていく。

 せめて。
 俺に手紙を書くことでお前の気が少しでも紛れればいい、と願いを込めながら。

 最後にはいつもの言葉を。


『それでは。次回の手紙を楽しみにしている。』






  第6話はルヴァイドです。まさかルヴァ様まで出て来るとは!計算外!(笑)
  ルヴァ様は騎士団を設立してもトリス達との関係は変わってなくて、いつも気にしてると思います。文通とかしてるよきっと!可愛いなぁ2人とも!
  イオスはいつまで経ってもルヴァ様大好きに違いない!(笑)

  ここまで読んで下さってありがとうございました。
  2008.06.11