僕が求めて止まなかった平和。
 でも、平和を手に入れたその代償は。

 僕には払えない、大きなものだった。


「…ふぅ」
 手元の書類から目を離して大きく伸びをすると、目の前にお茶が出された。
「あぁ、ありがとう、パッフェル」
「いいえ」
 パッフェルはにっこりと笑った。
「それより総帥。少し働き過ぎじゃないですか?」
「そんなことはないよ。ちゃんと休憩も取ってるじゃないか」
「休憩って10分じゃないですか」
 ぷりぷり怒る部下に曖昧に笑っていると、遠慮がちにドアがノックされた。
「はい」
「ギブソンとミモザです」
「あぁ、入ってくれ」
「失礼します」
 了承を得て部屋に入って来たのは、蒼の派閥の召喚師のギブソンとミモザだ。
「先日の無法者の処罰の報告書をお持ちしました」
「あぁ、ありがとう」
 報告書を受け取って、ふとある少女の顔が頭に浮かんだ。

「…、ねぇ」
「はい」
「…トリスはどうしてる?」
 その問いにギブソンとミモザは顔を見合わせた。パッフェルも2人を見遣る。
「…まだ、少し休養が必要です」
 ミモザの言葉に目を伏せる。
「―――そう」
 そう、一言だけ返した。一言だけしか、返せなかった。

 彼女が大切な人を失ったということを、2人の報告書で知った。
 その大切な人が、ネスティだということも。
 そして。
『違うよ、エクス。…あたしは』
 脳裏に過るその声の持ち主が、2年経った今も彼の姿を追い続けているということも。

 ギブソンとミモザが帰った後、パッフェルが容れ直してくれたお茶に口づける。
(――あぁ、そういえば)
 あの時、夜空に綺麗な月が出ていたんだったか。


 メルギトスとの決戦間近だったある日。僕はトリスを派閥に呼んで一緒にお茶を飲んでいた。
 ふと疑問に思っていたことを尋ねた。こんなに華奢な君の、どこにその強さがあるのかと。
『違うよ、エクス』
 彼女は持っていたカップを見つめた。
『…あたしは、全然強くなんてないの。何やっても空回りばっかりだもん。……だけど、ここまで来れたのは』
 そう、空に浮かんだ月を見つめて。
『…ネスがずっと傍にいてくれたからだよ』

 そう言って、嬉しそうに笑った彼女はもういない。


「?総帥?お茶苦かったですか?」
 手を止めた僕を不思議に思ったのだろう、パッフェルが首を傾げた。

 ――平和に犠牲はつきもの。
 それは分かっている。
 僕自身、総帥という立場だ。綺麗ごとばかりじゃいられないことも知っている。
 分かってるのだ、それは。
 だけど、それでも。
「―――あぁ」
 静かに目を覆う。

 こんなにも、この胸に広がるものは。
「………そうだな…」


 淡く、苦いもの。






  第5話はエクス。実は初の総帥!そして玉砕!(笑)
  総帥はトリスと仲良し(と思ってる)なので、ネスの一件は本当に辛いんじゃないかと思う。
  でも立場上、中々会えなくてギブソン達に様子を聞いてそう。
  …あれ?パッフェルって…エクスの密偵ですよね?(…)

  ここまで読んで下さってありがとうございました。
  2008.03.04