天使だったと、記憶が語る。
迫り来る悪魔から最後まで人間を守り抜いた、たった一人の天使だと。
そんな前世も、そんな事実も。
今はもう関係ないけれど。
もし、この声が届くなら。

「お昼ですよー」
住人に聞こえるようにエントランスで知らせる。エントランスはさほど声が大きくなくても響くので、よく利用していた。
「今日の昼は何だ?」
「お芋さんのスープとほうれん草のグラタン、それと昨日の夜の残りですよ」
階段から降りて来たフォルテににっこりと笑う。
メルギトスとの事件の後、私たちはこの家を拠点として一緒に暮らし始めた。…といっても、もちろん一緒に暮らしていない人もいるけれど。
「確か、ロッカとリューグは明日の夜に帰って来るのよね?」
「えぇ。手紙にもそう書いてありましたから」
ケイナの問いに頷く。二人は傭兵の仕事があり、数週間前から家を空けている。
「…バルレルがいないようだけど…いつもの?」
「…はい」
トリスが家にいない日。
彼が主の元へと昼食を届けに行くようになったのは、いつからだろうか。
「……」
昼食の後片付けも終わり、アメルはリビングのソファに座った。
住人は自室に戻っていて、リビングには鳥の鳴き声が微かに聞こえるだけ。
『――…今は行けねぇ』
そう静かに告げた彼を思い出す。
その表情は、どこか寂しげな、辛そうな。
…自分を、責めているような。
「貴方のせいじゃ、ないでしょう…」
朝に呟いた言葉を繰り返す。
あの時ほど、自分の無力さを呪ったことはなかった。
人一人救えない天使。昔となんら変わっていないじゃないかと。
ネスティ。
融機人(ベイガー)。前世からトリスと共に一緒に歩んで来た友人。
私と違い、一族全ての記憶を持って生まれた彼。それでも、運命を受け入れて。
一度だけ、聞いたことがある。どうして笑っていられるのか、と。
その問いに少し驚いて、困ったように笑って。
『…すぐ人の心配をするおせっかいがいるからな』
困ったように、だけどすごく幸せそうに言った彼。
「…ネスティ…」
昔みたいな天使の力はなく、魂の光なんて分かる訳ないけど。
・・・・・・・・
彼の魂の輝きは失われてはいない、と。私の中の天使が言う。
「どこにいるの………」
貴方のことを待っている子がいるのよ。
朝も、昼も、夜も。…きっと、夢の中まで。
きっと一人で泣きながら、それでも貴方のことを待っているのよ。
もし、この声が届くなら。
―――『貴方』が、この声をまだ覚えているのなら。
どうか。
この声を。
「『神様』……」
彼女に、救いの手を。
どうか。――どうか。
第4話はアメル視点。
朝食・昼食の当番はアメルだけど、夕食は2・3人の当番制になってたらいいと思う!(妄想)
……ところで、さすがにほうれん草ってリィンバウムにはないですかね?
ここまで読んで下さってありがとうございました。
2007.08.11
