神、なんて。
 ただの、『偽善者』だ。

 アイツらを信じるなんて、人間はどうかしてる。

 そう、思っていた。


「…おい、女。トリスは何処行った?」
 食器の片付けをしているアメルに尋ねる。
「……」
 アメルは困ったように笑うと窓の外に視線を向け、その視線を追ったバルレルは小さく舌打ちをした。
「また、『あの場所』か…」
「…うん」

 メルギトスを倒し、…ネスティがいなくなった、あの日以来。
 トリスはあまり町に出なくなった。
 本人は普通にしているつもりだが、誰が見ても無理をしているのは明らかだった。
 町に出なくなった彼女は、その代わりとでも言うように毎日『ある場所』に行っている。

 大きな、大きな樹のある、あの場所へ。

「…行かなくて、いいの?」
 アメルの言葉に窓の外に向けていた視線をふっと逸らした。
「――…今は行けねぇ」
 静かに、けれどどこか響いているように。
「バ…」
 アメルの言葉を遮るようにくるりと背を向ける。
「…夕飯になったら言え。迎えに行く」
 そう告げて、キッチンから出て行った。

 アメルは再び窓に視線を向けた。持っていた食器をぎゅっと握って。
「貴方のせいじゃ、ないでしょう…バルレル…」
 小さく呟いたその言葉は、水の音にかき消された。


 トリスの部屋のドアに寄りかかる。
『…行かなくて、いいの?』
 アメルの言葉を頭の中で繰り返す。
「…行ける訳、ねぇだろ…」

 あの時。泣き叫ぶ主人と主人に薄く笑う彼女の兄弟子を。
 俺は、ただ見ることしか出来なかった。後を追おうとする彼女を、止めることしか。

 もし今、彼女の傍へ行ったとしても、俺には何も出来ない。
 あの時と同じ、ただ呆然と彼女を見ていることしか。
「ッ情けねぇ…」
 魔公子?そんな称号が、一体何の役に立つのか。
 今も、泣く主人を宥(なだ)めることさえ出来ない、くせに。
「ックソ…」
 拳を握りしめる。

 何も出来ない。
 今もきっと泣いているアイツの為に、何も。

 ――…あぁ、こんな気持ちなのか。
 あの、『偽善者』に縋(すが)る人間たちは。

 いつも、辛い時も。
 咲いていた笑顔が日に日に枯れて。
 騒がしいほどだった口数も、少なくなって。


 神。
 俺はテメェを嫌いだし、今でも『偽善者』だと思ってる。

 だけど、叶うなら。
 テメェに縋ってる、俺の主人の願いだけは聞いてくれ。


 ―――なぁ、頼むから。






  第2話は護衛獣視点です。私の中でトリスの護衛獣はバルレルです。マグナはハサハ!
  バルレル大好きだ!あの護衛獣メインのストーリーでやられた!…最高クラスって魔公子ですよね?(オイ)
  バルレルはなんだかんだ言って、何も出来ない自分が不甲斐ないと思ってそうですよね。

  ここまで読んで下さってありがとうございました。
  2007.05.04 修正・加筆