「・・・・・・・。」
放課後。走っていた俺は思わず足を止めた。
中庭のベンチに釘付けになったまま。

「……何で、」
こんな所で寝てるんだ、この人は。
目の前のベンチには、すやすやと気持ち良さそうに眠っている先輩が。
(………確か)
『先輩。今日、自主トレがあるんで先帰ってて下さい』
『え?待っとくよ?』
『いや、遅くなるんで危ないスから』
『ん〜…そっか。分かった』
そう言って、先輩はにっこりと笑った。
…はずだったのだが。
「……はぁ。ったく…」
剣之助は溜息をついてベンチに近づいた。
「く〜…」
「…本っ当に気持ち良さそうに寝るよな…」
半ば呆れたように呟いて、先輩の髪を梳(す)く。
「…ん…」
微かに触れた指がくすぐったかったのか、先輩が体を丸める。
(……猫みてぇ…)
苦笑して、ベンチの前にしゃがみ込む。
「…ん?」
ふと何かに気付いて周りを見渡す。
よく見ると先輩の鞄がない。頭の方にちょこんと紙袋が置いてあるだけだ。
てっきり授業が終わって待っていてくれたと思ってたのだが。
首を傾げていた剣之助の考えはある所に行き着いた。
(…まさか…)
盗まれたのか!?
普通ならそんなことは少ないが、相手が先輩なら話は別だ。
先輩がどこでも熟睡するのを学校の人間は知っているし、鞄を盗られても気付かないかもしれない。…というか100%気付かない。
そもそも普通はこんな所で寝たりしない。…それを言ったら元も子もないが。
気持ちよく寝ている彼女に心が痛んだが、ヒトミの肩を揺らす。
「先輩!起きて下さい先輩!」
「……あれ…?剣之助……?」
「うっ…(すげぇ可愛い!!)」
(寝起きの)先輩に(妙に色っぽく)名前を呼ばれて思わずたじろぐ。
もちろんそんな場合ではないのだが、愛しい人に上目遣いに見られて(しかも色っぽく名前を呼ばれて)ときめかない男がいるのなら教えてほしい。
それでも(なんとか)赤面しかけた表情を隠し、寝起きの先輩に続ける。
「先輩、鞄はどうしたんスか!?」
「え?」
「やっぱり盗まれたんスか!?」
「ちょ…っ落ち着いて、剣之助!?」
その状況についていけないのはヒトミ本人だ。起きたら彼氏である剣之助が妙に慌てている。
帰ると言って結局待っていたことに対してかとも思ったが、彼ならその場合呆れたように笑うはずだ。
「盗まれたって…私の鞄が?」
ヒトミはきょろきょろと辺りを見回した。
「ちゃんとあるよ?ほら」
ヒトミが持ってみせたのは、頭上にあった紙袋だった。
「…今日、鞄持ってなかったスか?」
剣之助は目を丸くして尋ねた。朝一緒に登校した時には、確かに学校指定の鞄を持っていたはずだ。
そんな剣之助の疑問は彼女の言葉によって、見事に解決した。
「あぁ、一旦帰ったから。その時に鞄は置いて来たんだ」
「え?」
さらりと言われて剣之助は固まった。
一旦帰った?ならば、どうしてまだ学校にいるのか。
「何でそんな…」
「え?…だっ…だって…」
ヒトミは頬を染めて、ちらりと剣之助を見上げた。
「け…」
「け?」
「剣之助と…一緒に帰りたかったんだもん…」
小さく告げられた言葉。だが、彼にははっきり聞こえた。
「そっそういえばね、これ作って来たの!レモンの砂糖漬け」
言葉にしたことで恥ずかしさが増したヒトミは、話題を変えようと紙袋からタッパを取り出した。
「よ、よかったら食べ…」
急に視界が暗くなる。背中にある腕の感触で、彼に抱き締められていることに気付く。
「け、剣之助…?」
「……やべぇ」
「え?」
「…すっげぇ嬉しい」
ぎゅうっと抱き締めると、真っ赤になりつつ先輩が笑う。
そんな顔も全て、愛しいなと思う。
「…先輩」
「ん?」
手を繋いでマンションへと帰りながら、隣りの先輩に続ける。
「その…一緒に帰りたかったら、言って下さい。今日みたいなのは(色んな意味で)心配なんで」
「え?でも…」
「俺も先輩と一緒に帰りたいっスから」
君に会えない憂鬱な放課後。
でも明日からは、きっと。
愛しい君との時間がもう少し増える。
一応、各カップル話ということで書きました。
そんな訳で第一弾は若。若小説は初なんだけど難しい!(特に「っス」の入れる場所とか)
まぁ…まだ一度もクリアしてないんですけど(殴)そこは想像と妄想フル回転で!!(すいません)
若ってすごい可愛いですよね。ヒトミちゃんに押されてしまうのがデフォなのが若のイメージ。
次は多分一ノ瀬さんかな。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
2007.04.29 修正・加筆
