私の目の前にはノートと教科書のセット。
そして隣りに座る彼の手元には、分厚い本が一冊。

「……一ノ瀬さん」
「何だ。静かにしろよ」
「……あの、何で図書館なんですか?」
そう問う声音が少し不機嫌になってしまってるのは許してほしい。
一ノ瀬さんはそんな私を怪訝そうにちらりと見遣ると「何でって」と続けた。
「お前が課題終わらないって泣きついて来たんだろう」
「そ、そりゃ言いましたけど…って、泣いてはないですよ!?」
私としては一ノ瀬さんの部屋で勉強するものだと期待してたから、ちょっと……いや、かなり不満だったりする。
「どうしてマンションじゃないんですか?」
「……この間みたいに寝られると困るからな…(色んな意味で)」
心の中で本音を呟いた俺に気付かず、ヒトミは首を傾げた。
「この間?」
その言葉に、そういえばこの前うっかり一ノ瀬さんのベッドで寝てしまったことを思い出した。
「あ、あの時は本当に楽しみで夜に寝れなくて!ちゃんと謝ったじゃないですか!」
「うるさいと言ってるだろう」
眉間に皺を寄せて私を睨む一ノ瀬さん。でも。
「ふふっ。…怖くないですよ、一ノ瀬さん」
本当は怒ってないって分かってる。
「一ノ瀬さんが優しい人ってこと、知ってるんですからね」
どうだ!と言わんばかりに腰に手を当てる恋人に彼は目を丸くして、ぷっと吹き出した。
「な…何だよ、その自慢げな顔は…くっ…ははっ」
「へ??」
こんな外で声を出して笑うなんて(もちろん小声だけど)珍しい光景だなと思いつつ、ヒトミは首を傾げた。
「……」
「……おい」
突き刺さる無言の視線に耐えきれず、口を開いた。
視線を向けるのは言わずもがな隣りに座る恋人。ちらりと横目で見ているかと思うと、何かを言おうとしてもそのまま口を噤(つぐ)む。
10分もその状態が続くと、さすがの蓮も口を開かずにいられないというもの。
「お前、さっきから手が動いていないようだが。人の読書を邪魔してる場合か?」
呆れたように溜息をつく蓮に、ヒトミは「だ、だって…」と言葉を濁(にご)す。
「何だよ」
「わ、笑いません?」
「事の次第によるな。早く言え」
そう促されて、ヒトミは言いにくそうにぽつりと呟いた。
「い、一ノ瀬さん…本ばっかり読んでて…。せっかく一緒にいるのに…つまらないんですもん…」
「――は?」
彼女からの予想外の言葉に唖然とする。ここは図書館で本を読むのはごく自然な行動なのだが。
構って欲しい、と彼女はそう言ってる訳で。
「……ふっ」
「え」
その声に振り向くと、肩を震わせている彼の姿。
「くっくっく…お…お前……ははっ…」
「わ、笑わないって言ったじゃないですか…」
「笑わないとは言ってない…くくっ…事の次第によると言っただろ…ははっ」
肩を震わせ続ける一ノ瀬さんの姿に(かなりレアな気がするが、それどころじゃない)、急に恥ずかしくなって一気に頬が熱くなる。
(や、やっぱりおかしかったのね…)
それもそうだろう。ここは図書館で、本を読むのは全然おかしなことじゃないんだから。
ただの、私の我侭なのだ。子どもみたいに駄々をこねただけ。
そう考えると耳まで真っ赤になって来た気がして、慌てて顔を背けた。
(わっ…私の馬鹿…!)
かぁ〜っと熱が集まる頬を手で冷やす彼女を見ながら、蓮はふっと笑った。
(こいつの課題の邪魔にならないようにとなるべく時間のかかりそうな本を選んだんだが…)
まさか不満を持たれるとは思わなかった。
――あぁ、まったく。
なんて馬鹿な愛しい愛しい恋人。
「…俺も、お前について知ってることはあるが?」
「へ?」
一ノ瀬さんは意地悪そうに笑ったかと思うと、突然私の腕を引き寄せた。
「きゃ…っ」
思わずバランスを崩して彼の腕の中に倒れ込む。
「な、何ですか…いきなり…」
慌てて体勢を直そうとしたけれど、腕を引っ張られたまま動けない。首筋に感じる彼の息遣いに、顔が真っ赤になるのが分かる。
(うぅ…く、首に一ノ瀬さんの息が…!)
蓮はそんなヒトミに満足したかのように笑い、耳元へと顔を寄せた。
「お前は昔から」
「っ…!」
わざと低めの声で囁くと、彼女の肩がピクリと震える。
「――隙があり過ぎだ」
そう囁いた瞬間、彼女の唇に啄(ついば)むようなキスを落とした。
「なっ…なっ…」
金魚のように口をぱくぱくと動かす彼女に思わずくつりと笑ってしまう。
「なっ…何するんですかっ!」
「うるさいぞ」
彼女の声に気付いたカウンターにいる司書が睨んでいるのが見え、ヒトミを諌める。
「いっ、一ノ瀬さんんが悪いんでしょう!?こ…っ、こんな公共の場で…!」
口元を隠しながら真っ赤になって噛み付く恋人に「――なら、」と再び耳元で囁く。
「っ…!ちょ…っち、近いですって、ば…!」
「公共の場じゃなければいいんだな?」
その言葉に、ヒトミは目を丸くした。
「……へ?」
「帰るか」
「え?え??」
状況を把握しきれていない彼女の腕を取って、彼はニヤリと笑った。
「お望み通り、嫌ってほど構ってやるよ」
ついでに、男の部屋で寝るとどうなるかも教えてやるからな。覚悟しておけよ?
その日の午後。
図書館近くの花屋の店員が「そ、そういう意味じゃないですって!」と真っ赤になる女性を楽しそうに連れ歩く端正な顔立ちの男性を見たとか見てないとか。
それは、また別のお話。
Thanks 5000hit!゜☆,。・:*:・゜\(*´▽`*)/,。・:*:・☆゜
こそこそいちゃつく2人が書きたかっただけです!(どーん)
図書館でいちゃいちゃとか…なんかドキドキします。脳内は年中お花畑なので!
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ここまで読んで下さってありがとうございました。
2011.04.11
