12月24日の夕方。
「……これで終わり、だな」
 やれやれと溜息を一つついた蓮は部屋をぐるりと見渡して、携帯を開いた。


 事の起こりは4日前に遡る。
「……あの、一ノ瀬さん…。お話が…」
 彼女――…ヒトミは言いにくそうに蓮を見上げた。
「あぁ、そういえば言ってたな。どうした?」
 ソファに座って隣りの彼女を見遣ると、よほど言いにくいことなのか俯いている。
「あの、イブ…なんですけど、私、その、予定…が入っちゃって」
 その言葉に僅かに眉間に皺が寄ったのが分かる。
 クリスマスはイブから二人で会う予定を入れていた。…のだが。
「何だ、予定って」
「えっと…い、言わなきゃ駄目……ですよね?」
 そう恐る恐る聞くヒトミは、右往左往と目を泳がせている。
 隠しごとがあると言っているようなものなのだが、…どうやら彼女は未だに自分が顔に出るタイプだと知らないらしい。
「――そんなに言いたくないなら構わないが。俺との約束を反故(ほご)にするんだ。どこの誰と会うのかは知らないが、さぞ楽しみなんだろうな?」
「えっ!?」
 そう大袈裟に言い捨てて、ヒトミから視線を外す。
 もちろん蓮の演技なのだが、完全に彼が誤解していると勘違いしたヒトミは「ち、違いますって!!」と慌てて続ける。
「ただ、補習が入ってるだけで……」
「は?補習?」
「あっ!!」
 要するに、イブ当日の夕方まで補習が入ってしまった、らしい(というか、そんなに試験の結果が悪かったのか)
「…本当にごめんなさい…せっかく一緒に過ごそうって言ってたのに…」
 しょんぼりと肩を落とすヒトミに苦笑しつつ、さてどうしたものか、と蓮は溜息をついたのだった――…。


 ピンポーン、と玄関のチャイムの音で、一気に現実に引き戻される。
「来たか…」
 そう呟いて、もう一度部屋を見渡す。
(どんな反応をするだろうな…)
 自然と彼女の反応を想像する自分に苦笑して、玄関へと立ち上がった。

「……」
 部屋に入ったヒトミは固まり、それから目をキラキラとさせて「何ですか、これ…!すごいっ!」と興奮気味に俺を見上げた。
 想像した通りの反応に蓮はくくっと笑った。
 「わぁ…!」
 そこにはいつものシンプルなリビングはなく、クリスマスオーナメントやチャーム等が飾ってあり、テーブルにはクリスマスの定番でもあるポインセチアが置いてある。
「一ノ瀬さんが準備してくれたんですか?」
「どっかの誰かさんが異様にヘコんでたからな」
「一ノ瀬さん…っ!ありがとうございます!」
 茶化すように言ったがヒトミは嬉しそうに笑って、部屋の飾りの一つ一つを見て感想を漏らしている。その時。
「!あ…っ」
 部屋の隅に置いてある、腰くらい程の高さの小さなツリーに気付いたヒトミが振り返る。
「…これ…この間買った…」
「まぁな」
 ヒトミがイブ当日が補習だと分かる前日に二人で買ったツリー。
 もっと大きくてもいいんじゃないか?と言う蓮に、小さい方が片付けやすいですから!と笑って一緒に買ったものだ。
「…ほら」
「え?」
 きょとんと首を傾げるヒトミにツリーの飾りの星を手渡す。
「一番上の星は付けたいと言ってただろ」
 他の飾りはやってしまったがな、と笑うとヒトミは驚いたように目を瞬いた。
「…覚えててくれたんですか?」
『ツリーの一番上の星、付けたいんですよね』
 ヒトミがそう言った時は、興味なさそうに相槌を打っていたのに。
「当たり前だろう」
 当然のように言う一ノ瀬さんに嬉しくなって、つい笑みが零れる。
 ――『当たり前』のこと。それだけのことがこんなに嬉しい。
「ほら、早く付けろよ」
 そう促されて、ヒトミはもう一度笑ってツリーに星を乗せた。


「あの、一ノ瀬さん!ど…どうぞ!」
 晩ご飯の後。
 クリスマスプレゼントがあるんです!と楽しそうに鞄を探っていたのに、いざとなると妙に緊張しているヒトミに苦笑しながら、差し出された包みを受け取る。
 ラッピングを丁寧に開けると、品の良いネクタイピンが入っていた。
「良いピンだな」
「ほっ本当ですか!?」
 ぱっと嬉しそうに顔を上げるヒトミにあぁ、と笑う。
「大切に使う。ありがとう」
「えっ…い、いいえ!」
 蓮の極上の笑顔に、ヒトミは真っ赤になりながら手を振る。
(あ、相変わらず一ノ瀬さんの笑顔って心臓に悪い……)
 ドキドキとうるさい心臓を押さえる。
 きっと、一ノ瀬さんのあの笑顔に慣れることなんてないだろう。
 蓮はそんなヒトミをまたおかしそうに笑うと、「ちょっと待ってろ」と自室へと向かい、しばらくして手に何かを持って戻って来た。
「ほら」
 彼が持って来た箱を差し出される。
「え…わっ、私にですか!?」
「お前以外の誰にやるんだよ」
 何を言ってるんだ、と呆れたように溜息をつく一ノ瀬さんにお礼を言って丁寧にラッピングを開けていく。
「これ…プラネタリウムですか?」
 中から出て来たのは、ホームプラネタリウムだった。
「あぁ。結構綺麗らしいぞ」
 ネクタイピンを丁寧に箱に入れながら言うと、それとは逆にヒトミは箱を開け始める。
「おい?」
「せっかくだから今から見ましょうよ!え〜っと……」
 嬉しそうに着々と準備をするヒトミに、おもちゃをもらった小学生かよ、と笑った。


「わぁ……っ」
「ほう」
 スイッチを入れると、リビングに満天の星空が広がった。
「綺麗ですね…!あっ、これ流れ星も観れるんですって!」
 ソファに座り、隣りで興奮しながら星を見上げるヒトミにくつりと笑う。
 その笑いを勘違いしたのか、「また笑う…」とヒトミが呟いた。
「なんだ、不満そうだな?」
 怪訝そうな蓮に、当たり前じゃないですか!とヒトミは頬を膨らませてむくれた。
「…馬鹿だな…」
「ひゃっ!?」
 微かに笑って彼女の腰を引き寄せ、胸に飛び込んで来たヒトミを抱き締める。
「あ、あの、一ノ瀬さ…」
「そんなお前が可愛い、と言ってるんだが?」
「〜〜っ!?」
 ヒトミの言葉を遮ってわざと耳元で囁くと、今度は耳まで赤く染まる。
 慌てたり赤くなったり…、本当に忙しいヤツだ。
「うぅ…な、なんか一ノ瀬さん、いつもと違いませんか…?いつもより優しいっていうか…」
 恥ずかしそうに頬を染めるヒトミに、また微かに笑って。
「…ま、クリスマスだからな。たまにはいいだろ?お前を堂々と甘やかしたって」
 そう彼女の手を掬って指先に口付けると、ヒトミの肩が小さく強ばった。
「な、なんか…心臓保たないんですけど…」
 恨めしそうに火照ったまま自分を見上げる彼女に、つい固まってしまう。
「………」
「……?あれ?一ノ瀬さん?」
 どうかしました?と首を傾げるヒトミに、はぁ…と小さく溜息をついて彼女の肩へと頭を落とす。
「い、一ノ瀬さん??」
「…それはこっちの台詞だ」
「へ?」
「(…まったく…。これだからタチが悪い…)…ん?」
 ふと顔を上げて窓を見遣り、…なるほどな、と頷く。
「道理で冷える訳だ」
「え?…わぁ…っ!」
 一ノ瀬さんの視線を辿ると、窓の外では雪が舞っていた。

「綺麗…!明日降ってたら、ホワイトクリスマスになってたのに…」
 残念そうに呟く彼女に、…いや、と口を開く。
「ご希望のホワイトクリスマスになっているみたいだぞ」
「え?」
 彼のその言葉に壁掛けの時計を見ると、いつの間にか日付が変わっていた。
「……」
「……」
 思わず二人で顔を見合わせて笑う。
「なんだか一ノ瀬さんと一緒にいたら、なんでもロマンティックになっちゃいますね!」
「俺が雪を降らせた訳じゃないが?…ま、こういうのも悪くはないが」
 ふっと笑って、彼女の頬に指を滑らせて。


「メリークリスマス」

 そうして、再び腕の中の彼女の唇を塞いだ。






  今回もクリスマスに…間に合いませんでした…!(ですよね)今回こそは間に合うかと思ったんですが…!
  そして書いてる途中でのせさんを一瞬見失いました(いつものこと)その結果ですよねすいません(土下座)

  のせさんはたまにヒトミちゃんを堂々と甘やかしたくなるといい。きゅん…っ!
  しょんぼりヒトミちゃんの為に一人せっせと部屋の飾り付けをしてるのせさんを想像したら、なんとも言えない(ときめき過ぎて)
  クリスマスだし、いちょいちょしてればいいよ!(いつも言ってる)

  ここまで読んで下さってありがとうございました。
  2011.01.08