Q.夏といえば何ですか?
 A.花火


「一ノ瀬さん!花火しましょう!」
「……何だ、いきなり」
 蓮は来て早々ハイテンションな彼女に視線を向けた。
「だって夏ですよ!夏といえば花火じゃないですか!」
(また突拍子もない理由を…)
 小さく溜息をつく。…そんな彼女が可愛いと思うから、俺も重傷な訳だが。
「だめですか?」
「……別に構わないが…、どこでやるんだ?」
「近くの海とかどうですか?」
 ヒトミの言葉にふむ、と考える。確かに花火には手頃な場所だが。
「少し歩くが、大丈夫なのか?」
 確か30分ほど歩くはずだ。
「はい!」
「(…?妙にはりきってるな…)…まぁいい。なら、夜7時に迎えに行くから準備しておけよ。終わってなかったら行かないからな」
 蓮の言葉にヒトミは嬉しそうに頷いた。


「わ〜!貸し切りですね、貸し切り!」
 海を目の前にして、嬉しそうに笑うヒトミを見遣る。
 彼女は薄い青い生地に赤い金魚が泳いでる浴衣を着て、アップにした髪には髪留めの蝶が止まっている。
「すごいですよ一ノ瀬さん!」
「…分かったから落ち着け」
 はしゃぐヒトミに苦笑する。
 出会った時は犬みたいなヤツだと思ったが、今も大して変わってないな。
「早くやりましょう!」
「あぁ」
 ロウソクで火をつけて、隣り合って座る。
 さぁ…と色鮮やかな炎が舞う。線香花火だ。
「綺麗ですね…」
「そうだな」
 嬉しそうに笑うヒトミに微笑みを返す。
 と、その瞬間。何かが打ち上がる音がしたかと思うと、夜空に大輪の花が咲いた。
「へ!?」
「あぁ…そういえば、今日は花火大会だったな」
 確かマンションの掲示板に張り紙がしてあったはずだ。
「行ってみるか?」
 蓮の言葉にヒトミは「いいです」と笑った。

「私はこっちの方がいいです。だって、」
 幸せそうに微笑んで。
「一ノ瀬さんとこんなに近くで花火が見れるじゃないですか」

 ―――あの頃の俺は知らなかった。彼女と出会う前の自分は。
 彼女の、この裏表のない言葉に。
 この、優しい微笑みに。

 どうしようもなく幸せだと感じる自分がいるなんて。

 ――ぽた。
 小さくなった炎が地面に落ちる。
「あ…。終わっちゃいましたね…」
「あぁ。そうだな」
 使い終わった花火を用意していたバケツに入れる。
「えっと、それじゃ次は…」
 新しい花火を取りに向かおうと立ち上がった、その時。
「っいた…!」
「?ヒトミ?」


 辺りもようやく暗くなり、夜の静けさには波の音と夜空の花火の音だけが響いている。
 彼女を石段の上に座らせ、下駄を脱がせて眉をひそめた。
「…馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで馬鹿だったとはな」
 彼女の足の甲は皮がめくれて血が滲んでいた。靴擦れをしたのだろう。
「そ、そんなに馬鹿馬鹿言わなくても…」
 ヒトミをギッと睨みつける。
「すいません…」
 申し訳なさそうにしゅんと項垂れる彼女を一瞥して、深く溜息を落とした。
「…まったく」
 ティッシュで血を拭いてくれている一ノ瀬さんを見る。
「……あんまり履いてないし、下駄で来たら靴擦れするかもって思ったんですけど…」
「?なら、どうして…」
「でも、…どうしても一ノ瀬さんに浴衣見てほしくて」
 そう言いながら、まだ浴衣の感想をもらってないことに気付く。
 …あぁ、やっぱり似合わなかったかな。
「…だ、だから…その…」
「……」
「えっと…」
 無言の蓮に耐えかねたヒトミは手を振りながら笑った。
「や、やっぱり変ですよね?!ご、ごめんなさ……ひゃ!?」
 言いかけた途端、ヒトミの頬が赤く染まった。

「い、一ノ瀬さん!?」
 視線の先には、怪我した場所に唇を落とす蓮の姿。
「な、何を…」
「消毒だ。化膿したら困るだろう」
 そう言って、ぺろりと舐める。
「っん…汚い、です…から…!いち、の…せさ…」
 甘いと息を漏らすヒトミに苦笑しつつ、唇を離して持っていた絆創膏を貼る。
 こいつの無自覚さは本当になんとかしないとな、と思いつつ。
「…あ、あの…ありがとうございました」
 先ほどのこともあるからか、照れながら礼を言う彼女にいや、と笑う。
「……あぁ、それと勘違いをしているようだが」
 ヒトミの腕を引っ張って、自分の方へと引き寄せた。
「え…!?」
 急に体勢を崩した彼女は俺に凭れかかる形になる。
「あ、あの一ノ瀬さん?」

「――…その浴衣、よく似合う」

 そう囁くように言って、真っ赤になった彼女の首にちゅっと口付ける。
「蓮、さん…」
「綺麗だ」
 そうして、ヒトミの口を塞いだ。

 空に浮かぶ大輪の花より、色鮮やかな浴衣より。
 俺を惹きつけてやまないのは。


 お前、なんだがな。






  これも各カップル話として書きました。第一弾は一ノ瀬さん。
  ヒトミちゃんは浴衣似合いますよね絶対。髪飾りつけても可愛いし。
  微かに覗く足とかに、実は必死で耐えてるといい(笑)

  久々に微妙なエロが書きたくなったので、急遽舐めてもらいました!(どーん)ただのセクハラになりましたが(笑)
  私のサイトは裏がないので(書けない)、どうしても男性陣が耐える事になります!ごめん!

  ここまで読んで下さってありがとうございました。
  2008.02.01 修正・加筆