「…さっむーい!」
校舎から出た瞬間、冷たい風が頬を撫でてヒトミは思わず声を上げた。

気付けば、もう2月も終わり。昼間は暖かくなってきたけれど、やっぱり夕方はまだ冷える。
「もー…。若月先生、重たい段ボールばっかり持たせるし…腰が痛いったらないわ」
帰り際、保健室前で先生に捕まったのが運の尽き。ちょうど整理をしていたらしく、結局私も(強引に)手伝わされてしまった。
「大体、マドレーヌで機嫌をとろうったって……あ、結構美味しい…」
先生からもらった料理クラブで作ったというマドレーヌを一口食べて、思わず呟く。
やっぱり先生って料理上手なんだなぁ…。
「それにしても、こんな日に限ってマフラーも手袋も忘れる私って…」
そもそも本来はこんな遅くなる予定じゃなかった訳だけど…!と言って思わず縮こまる。
「うぅ…寒い…。ただでさえコート着てないのに…」
容赦なく吹く冷たい風に、うぅ…と下を向く。
朝出る前に準備したはずのマフラーと手袋。…今もまだこたつの上で待機したままだろう。
「…ん?何あの固まり…」
ふと視線を上げると、目の前に部活動で残っていたらしい女生徒たちが校門前で遠巻きに立ち止まっていた。
「誰かいるのかしら…?」
首を傾げながらその集団に近付くと、「何であの人がここに…」「相変わらずカッコいい…!」と話し声が聞こえて来た。
「…?」
不思議に思って、彼女たちの視線の先を辿ったヒトミはそこに立っていた人物に声を上げた。
「えっ!一ノ瀬さんっ!?」
校門近くの壁に寄り掛かる恋人に姿に慌てて駆け寄ると、蓮はあぁ、と組んでいた腕を解いた。
「遅かったな。補習でもしてたのか?」
「ち、違いますよ!ちょっと若月先生に捕まって掃除の手伝いを…」
「……へぇ?」
その言葉に僅かに眉間に皺を寄せる蓮に気付かず、ヒトミは「それで」と首を傾げる。
「どうしたんですか?急に」
「あぁ…大学が今終わったから、ついでにな。この時間なら騒がしいヤツらもそんなにいないだろ」
多少は残ってたみたいだが、と面倒そうに周囲を一瞥する一ノ瀬さんに苦笑する。まだ遠巻きに見ている彼女たちからとりあえず離れようと歩き出す。
今年卒業した一ノ瀬さんだけど、もちろん未だに絶大な人気を誇っている。
しかも、たまに私をこうして迎えに来てくれるものだから、直接は彼を知らなかった1年生ですら一目で彼のファンになってしまったのだ。
「この間なんて、1年生に追いかけられてませんでした?」
「……言うな」
その時のことを思い出したのか、げっそりとする姿にくすくす笑っていると、一ノ瀬さんが防寒具を何も付けてない私に気付いた。
「…お前、もしかしてマフラー忘れたのか?」
「あ、はい。朝急いでて…つい…」
「バカだな」
「うっ…」
はぁ…と溜息をつく一ノ瀬さんに、しょんぼりと肩を落とす。と。
不意にふわり、と首元が温かくなって。
気付けば、一ノ瀬さんが巻いていたはずの藍色のマフラーがかけてあった。
「一ノ瀬さん?」
「お前コートも着てないだろ。それ巻いとけよ」
「え、でも…一ノ瀬さんが風邪を…」
ひいちゃいますよ、と続く彼女の言葉を遮って彼は軽く笑った。
「いいから。ないよりはマシだろ?」
その言葉に私は少し考え込んで、彼の好意を素直に受け取ることにした。
「ありがとうございます」
マフラーからは微かに一ノ瀬さんの香水の香りがして安心する反面、鼓動が少し速くなってしまう。
「おい」
「はい?」
首を傾げて一ノ瀬さんの方に視線を向けると、ほら、と手が差し出されていた。
「えっ?」
「どうせ手袋も忘れたんだろうが」
…バレてる。さすが一ノ瀬さん。
そう感心しつつも、ヒトミは恥ずかしくてその手を取るのに少し躊躇してしまう。
「で、でも…」
「ないよりはマシだろ?」
ニヤッと笑って、さっきと同じ言葉を言う一ノ瀬さんに思わず笑ってしまった。
「なんだよ、文句があるなら別にいいが?」
そう言って手を引っ込めようとする彼に、ヒトミは「いえいえ!滅相もない!」と慌ててその手を取った。
「えへへ…温かいです」
「…バーカ。お前の手が冷たいんだよ」
そう一ノ瀬さんが笑ったかと思うと、おもむろに繋いだ手を持ち上げる。
「へ?」
不思議に思った、その瞬間。
ちゅっと音を立てて、手の甲には柔らかい感触だけが残った。
「いっ一ノ瀬さん!?」
い、今のって…!!!
真っ赤に頬を染めて慌てる彼女に、彼は笑みを浮かべて耳元で低く囁いた。
「――ほら」
温まっただろ?

そんな訳で、2/27は冬の恋人の日でした!のせさんといちょいちょさせ隊^^
冬の恋人の日→寒がる彼女といちょいちょうふふ→蓮ヒトという方程式が出来上がりました(超真顔)
そして答えは手ちゅーです。そんな脳内方程式ww
のせさんに最後のセリフを言わせたかったのでとても満足です!(超笑顔)もっといちょいちょさせたかったけど自主規s(ry
ここまで読んで下さってありがとうございました。
2011.03.02
