学校の屋上で、あかりは空を仰いでいた。
季節は10月中旬。さすがに上着も無しじゃ少し肌寒いな、なんて思いながら。

『お前のことを思うと、苦しくなる』
そう言ったのは瑛。言われたのは私で。
気付いたらその場から走って逃げていた。後ろで制止する瑛の声が聞こえたけど、そんなの無理だった。
ポリポリと手に持っていたポッキーを口に運ぶ。
(…つまり、私と一緒にいたくないってことだよね)
それってひどくない?でも瑛って人気者だし(主に女子にだけど)、私といるのが嫌になっちゃったのかもしれない。
(じゃ、今度からあまり話しかけない方がいいのかなぁ…)
帰りも一緒に帰らない方がいいんだろうし。あ、アルバイトはどうすればいいんだろ…。やっぱり辞めた方がいいのかな?
(……そっか……)
そっと目を伏せる。
どうせなら、卒業まで言わないでくれたらよかったのに。そうすれば、きっと卒業まで楽しく過ごせてたのに。
「はぁ…」
知らずに小さく溜息をついた。その時。
「あかりっ!」
屋上の扉が開いて、聞こえて来たのは聞き覚えのある声(っていうか、さっき聞いたばかり)
「…瑛」
「何で逃げるんだよ!」
瑛は怒りながら私の方に近寄って来る。
…ちょっと待って?何で私が怒られないといけないの?
「…私、これからなるべく瑛に声かけないようにするし、アルバイトも瑛が居辛いなら…辞めるし…」
「!?ちょっ、ちょっと待てよ!何の話だよ!?」
瑛が慌てて私の肩を掴んだ。ちょっと痛い。
「…だって瑛、私と居たくないんでしょ?」
「はぁ!?」
私の言葉に瑛の眉間に皺が寄る。
…前から思ってたけど、瑛は怒り過ぎだと思う。やっぱりカルシウムが足りないんじゃないかな…。
「だって、私のこと考えると苦しくなるんでしょ?」
「そっ、そうだよ!」
ぷいっとそっぽを向く。ほら、やっぱり。
「つまり、私と居たくないんでしょ?」
「…はぁ!?何でそうなるんだよ!!」
「え…?違うの?」
首を傾げると、瑛は「ちょっと待て…普通は……あ〜…そっか…あかりだもんな…」なんてぶつぶつ呟いている。
よく分かんないけど失礼だよね?
「え〜っと…瑛…?」
瑛はがしがしと頭を掻きながら、はぁ〜と大きい溜息をついた。
「だから……つまり……べ、別にお前が嫌になった訳じゃなくて…っていうか、どっちかっていうとその反対で……」
「??」
全然分からない。多分、私の頭上には「?」がくるくる回ってると思う。
「……あーーーーっもう!!だから、別にお前が嫌いになった訳じゃないから!!」
「…そうなの?」
「そうなの!だから俺はこれからもお前と話すし帰るし、お前もアルバイト辞める必要はないの!!分かったか!?」
…な、なんか怒られてる気がするけど……つまり……。
「…別に今まで通りでいいってこと?」
「そうだよ!!変な早とちりするな!馬鹿!!」
瑛はそう言って、私の頭に軽くチョップをした。
……そっか。今まで通りでいいんだ。
「よかった!」
えへへと笑う。
「瑛と話せなかったら寂しいもん!」
「……」
「?あれ?瑛?項垂れてどうしたの?」
「なんでもない……」
瑛ったら真っ赤な顔してどうしたんだろ?…怒り過ぎ?
「…今度、いりこ持って来ようか?…いたっ!何でチョップするの!?」
「完全に馬鹿なこと考えてただろ」
「…瑛ってエスパー?」
「あかりが分かりやす過ぎるんだよ」
そう言って、扉の方へ歩く瑛を目で追う。
(…そっか、今まで通りでいいんだ。…よかった…)
もう一度確かめるように心の中で繰り返す。
瑛と今までみたいにいられないって想像したらすごく寂しかったから。
ちょっと胸も痛かったような気がしたけど……。
「早く来いよ、あかり」
「あ、うん!」
そう考えていた私は、瑛の呼ぶ声に慌てて付いて行った。
私がこの気持ちの名前を知るのは、もう少し後のお話。
デイジーの魅力は「鈍感・人の話を聞かない・物忘れのひどさ」だと本気で思ってる。あと勘違いの多さ!
喉まで出かかってたのに佐伯に呼ばれて意識がそっちに向いちゃう訳です。そして案の定、何を考えてたかを忘れる…と。
自分の首を絞めて不幸な道をまっしぐらな佐伯が大好きです(真顔)
ここまで読んで下さってありがとうございました。
2009.08.21
