「信じられないっ!」
そう言うと、彼女は目の前のケーキにフォークを刺した。

「……」
その行動に、僅かに驚いて瞬きをする俺に気付かないのか、彼女は思いきりケーキを頬張った。
「前だって、せっかく友達が親睦会誘ってくれたのに、行くなって勝手に返事したんだよ!おかしいよね!?」
「…そうだな」
そう相槌を打って、彼女――海野の口元に付いていた生クリームを拭い取ると、「ありがとう」と照れくさそうに笑った。
「…まぁ、俺は佐伯の気持ちも分からないでもないけどな…」
「え?何が?」
「……さぁな」
きょとんと首を傾げる彼女の言葉に素っ気なく答え、コーヒーを飲んだ。
海野の鈍感さは高校から変わっていない。そして、その鈍感っぷりは群を抜いている。
俺も佐伯も、……他のヤツも彼女の鈍感さには苦労したものだ。
(…確かに)
話を聞くに、毎回海野を誘うらしい友達とやらは「今日はこのメンバーと親睦会だよ!」と誘っているようだし、十中八九、親睦会とは名ばかりの合コンだろう。
話を聞くだけの俺ですらそこまで分かるというのに、直に誘われている本人は微塵も不審に思ってないらしい。
(まぁ、海野だしな…)
その一言で納得する俺がすごいのか、納得させる海野がすごいのか(多分、後者だろう)
「…私だって」
そう思考を巡らせていると、海野がぽつりと呟いた。
「ん?」
「私だって、瑛が心配してくれてるって分かってるし、嬉しいよ。…でもっ!」
海野がドンッとテーブルを叩き、コーヒーの入ったカップが揺れて慌ててカップを支える。
「っと!」
「それとこれとは別なの!しかもね!何て言ったと思う!?」
「?」
「「お前みたいなヤツは行ってもカモられるだけだろ。そんな事も分かんないのかよ?」って言ったんだよ!!あの小馬鹿にした目で!!ひどいと思わない!?ひどいよね!」
海野はそう言って、「大体、瑛は昔から…」とぶつぶつ呟いている。
「…」
いや、アイツは正しいことを言ってるぞ、なんて言えたらどんなに楽か。
彼女がカモられる…というか、変な輩に狙われるのは目に見えている。人を疑わないのは彼女の美点で、欠点でもあるから。
(…佐伯の言葉も悪いが…)
素直に「心配だから行くなよ」と一言言えばいいのだが、屈折してるアイツにはハードルが高いだろう。
(そもそも、何でこんなこと相談されてるんだか…)
正直なところ複雑な気持ちだ。
もちろん昨日の夜、海野から「明日空いてる?」と電話があった時から、何か相談されるんだろうとは予想はしていた。でも。
(…どう聞いても惚気にしか聞こえないんだけどな…)
今の海野にそう言った途端、ものすごい形相で睨まれそうなので口には出せないが。
(…コイツは)
知ってるんだろうか。
俺が、お前のことをどう想ってるか、なんて。
(…まぁ、知る訳ないよな…)
知ってるとしたら、こんな相談されないだろう。そんな性悪なことをするようなヤツじゃないし、出来るヤツでもない。
そんなヤツだと知ってるから、俺は今でもこいつの傍にいたいって思うんだろう。
――例え、付き合えなくても。
ちらりと海野に視線を向けると、彼女はまだ不機嫌そうに呟いている。
俺は軽く溜息をついて、「…じゃあ」と続けた。
「海野は何が嫌なんだ?」
「え?」
「勝手に返事をされたことか?それとも、その小馬鹿にした目か?」
「……それは…」
俺の言葉に、海野は口を噤(つぐ)む。
「それを即答出来ないってことは、海野も本当は分かってるんだろ?佐伯は…」
「……ない」
「海野?」
「そんなの知らない!」
そう声を荒げて、海野は目の前のケーキを口に入れた。…とても美味しそうには見えない顔で。
「とにかく!絶対っ!私からは謝らないんだから!!」
(…やれやれ)
そんな彼女の様子にもう一度小さく溜息をついて、目の前のモンブランを口に入れた。
…今回の喧嘩は少し長引きそうだ、と思いながら。
『カレとカノジョの日常』のあかり視点です。
親友バージョンの志波はなんかよいよね!という妄想から出来た話(笑)
なんだかんだで、デイジーの相談に乗ってしまう志波^^
惚れた弱みですね、分かりますww
志波は卒業しても定期的にデイジーと会ってるととても萌える!
ここまで読んで下さってありがとうございました。
2010.12.19
