まだ誰も来ていない教室で本を広げていると、廊下からパタパタと軽い足音が聞こえる。
(…あいつだ)
 見なくても誰の足音か分かる俺は、相当あいつに参ってるんだと思う。


「…あれっ?佐伯くん!」
「……げ、お前かよ」
 優等生スマイルで振り返って、誰か分からなかったという素振りを見せる。…最初から分かってたくせに。

「早いんだね?」
「今日返却予定の本、読み終わってなくてさ。店にいるとつい仕事しちゃうから」
「そっか」
 息を乱しながら笑うあかりを不審そうに見遣る。
「何でそんなに慌ててんだよ」
「あっ!そうだった!佐伯くん、ちょっと匿って!」
「はぁ?…お、おい?!」
 理由を聞く間もなく、あかりはカーテンの中に隠れてしまう。
 その時、バタバタと騒がしい足音がしたかと思うと、教室のドアが勢いよく開けられた。
 顔を覗かせたのは見覚えのある女子。
「わっ!佐伯君!今日早いんだぁ!…あれ?一人?こっちに海野さん来なかった?」
 その言葉で、なんとなく状況が把握出来た。
「やあ、おはよう。海野さん?…あぁ、廊下、走って行ったみたいだけど」
 いつものように優等生の顔で笑って、彼女が走って来た方向と反対を指差す。
「そっかぁ!ありがと!」
 遠ざかる音を聞きながら、カーテンに近付いた。

 あいつが隠れてるカーテンは不自然な膨らみをしていて(大方体を丸めて隠れているのだろう)、これでよくバレなかったもんだと感心する。
 あかりはまだ女子が去ったことに気付かないのか動かない。
「…」
 ふと、自分の手の平を見る。
 この手を、指を伸ばせば触れられる距離にあいつがいる。
(…このまま、)
 あの細い腕を引き寄せて、小さな体を抱き締めることが出来たなら。
 そう、カーテンへと手を伸ばした―――。

「…で?」
 いきなりカーテンを開けられて驚くあかりには気にせず続ける。
「何したんだよ」
「何もしてないよ!」
 俺の言葉に、あかりは心外だとでもいう風に首を振った。
「何もしてないのに、何で追いかけられてんだよ。おかしいだろ」
「それは…ちょっと質問に答えなかっただけで…」
 そう答えて、顔を背けるあかりに眉をひそめる。
「質問ってなんだよ?そんなにマズいことだったのか?」
「う〜ん…内緒!」
「………なんで」
 予想外の返答に隠し切れない不機嫌さが滲み出る。

「俺には言えないことなのか?」
「言えないことっていうか…恥ずかしいっていうか…」
 らしくなく、言葉を濁す彼女にますます眉をひそめる。恥ずかしい…ってまさか…。
 もごもごと口ごもるあかりに思わず詰め寄る。窓に背を預けているあかりは、きょとんと不思議そうに首を傾げた。
「…?佐伯くん?」

「まさか、好きなヤツのこと聞かれた、とか」
 そんな訳ないよな、と笑ったのと、彼女の顔がさっと赤く染まったのは同時で。
 ……は?
(ちょっ、ちょっと待てよ!マジかよ!?!)
 予想外のリアクションに慌てて、そいつ誰なんだよ、と。言葉にするその瞬間。
 遠ざかった足音が聞こえて来て、あかりはまるで動物のようにピクリと反応した。
「戻って来ちゃった!?佐伯くん匿ってくれてありがとう!じゃあね!」
「あ、あぁ…」
 教室から飛び出すあかりに、力なく手を振りながら。
「…内緒ってなんだよ……」
 呟かれた言葉が、また一人になった教室に空しく響いた。


 追いかけていた女子から、あかりから俺の家を教えてもらえなかったと文句を聞いて。
 馬鹿みたいに期待する俺がいたのは、その、数日後のこと。






  嵐のようにやって来て、嵐のように去って行くデイジー。そんな彼女に振り回される被害者一名^^
  カーテン越しに何も出来ずに悶々としているヘタレな佐伯を書きたかった!(笑)
  ばっ…バカ!そこで問答無用でぎゅーしてちゅーしたら一人前だよ!!(何の?)

  ここまで読んで下さってありがとうございました。
  2010.08.22