――ねぇ、瑛。
ベッドの端に座った彼女は振り返って、にっこりと笑って言った。
『私、瑛の子供が欲しいな?』

――ガタンッ!
「…ッて!」
背中に強い衝撃と痛みを感じて目を覚ますと、いつもより天井が遠い。…どうやら見事にベッドから落ちたらしい。
…夢、だったのか。
「…馬鹿か、俺…」
そう呟いて溜息をつく。
夢でよかったと安堵した反面、夢だったのかと少し落胆した気がするのは…きっと気のせいだ。
「……っ!?」
ふと辺りを漂う異臭に気付いて、瑛は慌てて布団を抜け出す。
(またかよ、あいつ…!)
階段を駆け下り、キッチンへと続くドアを思いきり開ける。
「あかり!!」
「あっ!おはよう、瑛」
「!」
にっこりと笑うエプロン姿のあかりに、思わず今朝の夢がフラッシュバックしてしまう。
付き合って3年、同棲して1年。…やっとこの光景にも慣れて来たのに…。
「あ、あぁ…おはよう」
思わず目を逸らすと、その先のフライパンが目に入り、本来の用件を思い出す。
――フライパンからは焦げた匂いと共に黒い煙が立ち上がっていた。
「…じゃなくて、火!火止めろ!焦げてる!!」
「え?…きゃーーっ!!」
瑛は真っ青になるあかりを押し退けて、慌てて火を消したのだった。
「ごめん…焦げちゃった」
「…」
目の前に並んだ癌になりそうな魚を無言で見る俺に、あかりは申し訳なさそうにしゅん…と肩を落とした。
「別にいいけどさ…。でも、いつも気をつけろって言ってるだろ?」
炭になった部分を剥がし食べられる場所を探しながら、溜息をつく。同棲を始めてこれで何度目の火事騒ぎだろう。…確か、半年過ぎた辺りから数えるのは止めた気がする。
出会った頃からこいつはそそっかしい所が多くて、俺がいない時に怪我をしていないかいつも心配になってしまう。当の本人は「瑛は心配性だなぁ」と笑うけど、この惨状を何度も見たら誰でもそう思うだろ…。
「そうだよね…。せっかく買った新しいフライパンが焦げたら大変だもんね…」
「…は?」
ごめんね、と呟くあかりの言葉に、俺は思わず箸を落としそうになる。
な、何でそこで新調したフライパンのことが…。
「いや、違うだろ!火事になっても危ないし、第一、お前が怪我したらどうするんだよ?」
そもそも火傷って痕になりやすいし。
「別に俺はお前に火傷の痕があったって絶対に嫌いにはならないけどさ。やっぱりお前の体に傷とか痕が残るのは嫌だし」
「……」
「…ん?」
ふと視線を感じて顔を上げると、あかりがポカンと口を開けて俺を見つめていた。
「何だよ?その顔」
言っとくけど、その顔アホっぽいぞ。いや、別にいいけどさ。
「…やっぱり瑛ってお父さんみたいだね」
「はぁ?」
彼女の言葉に思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
何だよ、それは。
「…別にお前の父親になったつもりはないけど?」
そもそも恋人に言うセリフでもないような気がするけど。
理解出来ないと眉を顰(しか)めると、あかりは「あ、違うよ!そういう意味じゃなくて」と慌てて手を振った。
「瑛はいい旦那さんになるんだろうなぁって思って」
「へ?」
予想もしてなかった言葉にあんぐりと口を開ける俺に気付いていないのか、あかりはにっこりと笑って。
とどめの一言を言い放った。
「瑛と結婚する人はきっと幸せだね」
「えっ!?」
その言葉に思わず忘れかけていた今朝の夢を思い出し、今度こそ箸が滑り落ちたのだった。

GSでも記念日シリーズ!3/7は消防記念日だそうです。
消防記念日→火を消す→フライパンを焦がす恋人→同棲という方程式がビビッと来ましたww(何故)
あかりと同棲したら、佐伯の気苦労が増えるのは目に見えてますね。不憫な佐伯…いい…!(<●><●>)カッ←
ここまで読んで下さってありがとうございました。
2011.05.22
