「瑛、聞いて聞いて〜!」
「…何だよ、うるさいな」
どんっ!と後ろからぶつかった想い人を睨む。

海野あかり。
高校を卒業して、同じ大学に入学して。
それでもこの距離が縮まらないのは、自分の気持ちを言えない俺がいるから。
(…いや)
何度か言おうとしたし、ぶっちゃけ告白めいたものもしたこともある。それでもこいつは俺の気持ちに気付いてない。
(それもこれも、こいつが鈍いせいだ…!)
大体、何でこんなに鈍いんだよ。別に、他のヤツからのアプローチとかには全然気付かなくてもいいんだ(寧ろ気付いて欲しくない)でも俺のアプローチには気付くべきだろ!?
「ねぇ、瑛ってば!」
「…あ。悪い」
その声で我に返って、背中に引っ付いたままのあかりを見る。端から見たらどう見ても恋人なのに…と、心の中で項垂れながら。
「聞いてなかったの!?」
「……ごめんね?ほら、いきなりでびっくりして」
にっこりと高校時代に活躍してた『優等生』の顔で謝る(ちなみに大学でもたまに活躍してるけど)
「うえ…」
「うえって何だ!」
「いたっ!」
人の顔を見るなり嫌そうな顔をするあかりにチョップをする。失礼過ぎだろ。
「で?何だよ」
「聞いて驚かないでよ!」
「ウルサイ。早く言えって。次の講義始まるだろ」
むぅと頬を膨らませるあかりを背中に引っ付けたまま、ズルズルと次の教室に向かう。同じ講義を取ってるから別にこれでもいいんだけど。
「前から思ってたけど、瑛って短気だよね。カルシウム足りてる?」
「……」
無言でチョップ。…誰のせいだと思ってんだ。
「いたっ!ほら、すぐチョップするし」
「お前が変なこと言うからだろ」
「えー?お父さんすぐそう言うんだもん〜」
「お父さんが言っても直そうとしないくせに。直しなさい」
あかりをズルズル引きずりながら教室の前で止まる。と、ちょうどよく予鈴を知らせるチャイムが鳴った。
「あ!チャイム!」
「ちょっ!あかり!」
背中から離れて教室に急ぐあかりを慌てて止める。
「結局、話って何だったんだよ?」
「あっ!そうだった!忘れてた」
えへへと笑う。…忘れてた。こいつは鈍い上に物忘れがひどかった。
「…あのね、私、彼氏出来るかも!」
「…………は?」
「それだけっ!」
「はぁ!?」
そう言って教室に走るあかりの後ろ姿を見ながら、講師から不思議そうに肩を叩かれるまで呆然と立ち尽くしていた。
「どういうことだよ!」
「ふえ?」
昼休み、カフェテラスでカフェオーレを飲んでいるあかりを問いつめた。
「何が?」
「何って……さっきの話だよ!」
「さっき……?………。………ああ!」
これも忘れてたのかよ!俺は気になってあの後の授業に全然集中出来なかったのに!
「ど、どういう…!」
「あぁ、あれ嘘だよ?」
あかりは紙コップをカラカラと揺らしながら、さらっと言った。
「は!?嘘!?」
「うん。…あ、告白されたのは本当だけど」
「は!?」
つまり…告白されたけど、断ったってことか?
「瑛びっくりするかな〜と思って」
「………」
えへへと笑うあかりに、無言でデコピンを一発。
「っいった〜い!」
「ウルサイ。お前が悪い」
隣の席にどかっと座る。
「あれ?怒った?」
「別に。」
あかりの言葉にふんっと横を向いた、その時。
「あれぇ?佐伯く〜ん!」
声がした方を向くと、知らない子が手を振って走って来る。…見るからにチャラチャラしてて苦手なタイプ。
「…やあ、こんにちは」
「佐伯くん、次は何の授業なのぉ?」
「次はないんだ。休講になって。君は?」
「あたし心理学なんだけどぉ、佐伯くん休講ならあたしも休んじゃおっかなぁ〜」
…勘弁してくれ。この猫撫で声、イライラするし。
「ちゃんと出席した方がいいと思うよ」
にっこりと『優等生スマイル』で笑う。
「えぇ〜?う〜ん、佐伯くんがそう言うならそうしよっかなぁ〜。今度は絶対遊んでねぇ?」
「うん。機会があったらね」
にっこりとそう言うと、彼女は機嫌良さそうに去って行った。…そんな機会、絶対作らないけど。
「相変わらずモテるね、瑛って」
その一言にあかりをちらりと見遣る。…こう見えて、少しくらい気にしてるのかも…。
「今年も誕生日とかすごそうだよね。お菓子とかもらったら分けてね!」
「……」
「いたっ!」
その言葉に無言でもう一発。
…そうだった。こいつは鈍いんだった。期待するだけ無駄だ、確実に。っていうか悲しくなる。
「何でチョップ!?変なこと言ってないよね!?」
「…ごめんね、手が滑ったんだ」
にっこりと『優等生』の顔で笑った途端、あかりはまた嫌そうな顔をしたかと思うと。
「……うえっ」
「だから、うえって何だよ!失礼過ぎだろ!」
「だって、その『優等生スマイル』気持ち悪いんだもん」
「きも…っ!?」
気持ち悪いって言った!?こいつ、人の顔を気持ち悪いって言ったのか?!今!?
「おま…っ!」
「だって、なんか無理して笑ってるみたいだし、別人みたいで嫌。私はいつもの瑛の方が好きだなぁ」
よく怒ってるけどね、と笑うあかりに、チョップの出番だと振り上げた腕が宙で止まった。
…何で、いつも俺が喜ぶようなことばっかり言うんだこいつ。きっと、俺がどれだけ嬉しいかなんて全然気が付いてないんだろうけど。
「?瑛?てーるー?どうしたの?顔赤いよ?」
「…っ!なんでもない!」
不思議そうに見るあかりから目を逸らすので精一杯。
(…あぁ、もう)
今日もあかりに想いを告げられそうもない。
ブログより(まさかのブログ発信)修正・加筆してアップ。
ヘタレな佐伯はお父さんの位置を維持するのに結構必死だったらいい!
お父さんネタとヘタレ佐伯を愛して止まない。佐伯にお父さんと言わせ隊!
そして猫撫で声の認識を間違ってる気がしてならない。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
2009.07.18 修正・加筆
